1.はじめに
高層集合住宅に多用されている高強度コンクリートや地下躯体などに使用されるマスコンクリートは,水和熱により材齢初期に高温履歴を生じることが知られている.高温履歴を生じた場合,一般的には初期強度発現が大きく,長期的な強度増進が停滞するといわれているが,その傾向はセメント種類や使用材料によっては高温履歴を受けた場合の方が大きな強度増進をもたらす場合もある.また,高強度コンクリートは,建築基準法第37条2号による国土交通大臣の認定が必要な指定建築材料であり,申請者(ゼネコン,生コン工場等)ごとに大臣認定を取得するためのコンクリートの強度発現特性に関する実験が行われている.2000年の建築基準法改正以降,多くの大臣認定が申請されデータの蓄積が膨大となってきたことから,日本工業規格に適合させて大臣認定を必要としないよう標準化する方向で法的規制のあり方が検討されている.ただし,これまでに蓄積されてきたデータは,申請者ごとの条件での実験結果であり,統計的な知見は得られるものの,定量的に強度発現メカニズムを明らかにするための知見は不足している.
本研究では,高温履歴を受ける際のコンクリート部材内部での温度履歴と水分移動,収縮・硬化過程の組織形成状態がコンクリート部材の強度発現特性に及ぼす影響を,実大部材を模擬したコンクリート供試体を用いて検討を行い,基礎的知見を得ることを目的に実験を行った.
2.実験概要
柱部材を模擬した1m×1m×1mの供試体1)を作製し,図1に示すように熱電対と埋込み型ひずみゲージ(T社製KM-100BT)を埋設し,打込み直後からの温度履歴と収縮挙動を計測した.
3.研究成果の概要
4種類の結合材(普通ポルトランドセメント,高炉セメントA,B,C種)および水結合材比3水準(55,48,38%)の組み合わせからなる合計6調合のコンクリートを使用して作製した模擬部材を用いて温度履歴特性および収縮特性を把握した(図-2,図-3).その際の温度と全ひずみ(自己収縮ひずみと温度ひずみの合計)との関係から,コンクリートの見かけの線膨張係数を算出し,高温履歴を受ける際の温度ひび割れの評価のための知見を得た.
また,所定の材齢で採取したコアおよび簡易断熱養生供試体の強度試験結果と最高温度の関係から,スラグ置換率ごとに高温履歴から受ける強度発現への影響が異なることを明らかにした.これらの差が生じる要因に関して,コンクリートおよび粗骨材の見かけの線膨張係数に着目して検討を行い,骨材の線膨張係数(図-5)と各コンクリートの見かけの線膨張係数との比較を行った(図-6).その結果,コンクリート部材中の見かけの線膨張係数と使用した骨材の線膨張係数の差と,強度発現比率との間に相関性が見られ,骨材とモルタルマトリクスの界面に生じる温度履歴時のひずみ差が強度発現に影響を及ぼしている可能性を示した.
4.まとめと今後の展望
コンクリート部材の強度発現は外環境や使用材料など様々な要因により変動するが,特に高温履歴を受けた部材の強度発現傾向が,コンクリートの構成材料の線膨張係数が影響している可能性を示した.今後は,異なる材料・調合条件での相互性を検討するとともに,本実験と同時に実施し分析中であるコンクリート内部の水分移動と水和率分布等の結果を総合的に検討することにより,高温履歴を受けた場合のコンクリート部材の強度発現メカニズムの定量化が可能となると考えられる.
参考文献
1)日本建築学会:高強度コンクリート施工指針・同解説,2013.11
5.本研究に関する研究業績の一覧(2014-2015)
審査付学術論文
1)佐藤幸惠,閑田徹志,小島正朗,檀 康弘:高炉スラグ微粉末を使用したコンクリートの暑中期における構造体中での力学特性に関する実験的研究,日本コンクリート工学会年次大会論文集Vol.37,2015.7(採用決定)
国内学会発表(発表予定含む)審査付学術論文
1)大川未希子,佐藤幸惠,閑田徹志,小島正朗,鹿毛忠継:高炉スラグ微粉末を使用した構造体コンクリートの強度発現性と収縮挙動に関する実験,2014年度日本建築学会関東支部研究報告集2015.3
2)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その1全体概要,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
3)大塚秀三,桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その2実験概要,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
4)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その3フレッシュコンクリートの性状,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
5)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その4管理用供試体の養生方法の違いが見掛け密度に及ぼす影響,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
6)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その5模擬部材から採取したコア供試体の採取深さが見掛け密度に及ぼす影響,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
7)蓮尾幸一,桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その6圧縮強度,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
8)吉岡昌洋,桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その7各種養生及びコア供試体の強度発現性,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
9)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その8せき板の存置期間の相違による強度発現性への影響,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
10)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その9模擬壁部材におけるせき板の存置期間の相違による初期強度発現性への影響,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
11)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その10模擬床部材におけるせき板の存置期間の相違による初期強度発現性への影響,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
12)桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その11模擬部材の温度履歴とせき板取り外し時の積算温度,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
13)唐沢智之,桝田佳寛,中田善久,佐藤幸惠,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その12積算温度と圧縮強度の関係,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
14)佐藤幸惠,桝田佳寛,中田善久,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その13各種温度履歴に基づく有効材齢と圧縮強度の関係,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
15)桝田佳寛,中田善久,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その14模擬部材表面の温度履歴に基づく圧縮強度の推定,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
16)桝田佳寛,中田善久,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その15せき板の存置期間の相違による細孔径分布への影響,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
17)桝田佳寛,中田善久,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その16圧縮強度管理の基準に関する一考察,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9
18)桝田佳寛,中田善久,野口貴文ほか:各種結合材を用いた構造体コンクリートの圧縮強度管理の基準に関する検討 その17せき板の存置期間に関する一考察,2015年日本建築学会大会(関東)学術講演梗概集2015.9