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交通ビッグデータを用いた都市交通施策の評価指標の分析に関する研究

都市工学科 今井龍一

研究背景と目的

都市交通の各施策におけるPDCAサイクルの“C:Check”に係わる評価指標の算出では、国勢調査やパーソントリップ調査等の統計資料が活用されている。これらの統計資料の調査頻度は5~10年に1度であるため、データの「鮮度」に課題があることが指摘されている。このため、行政では、補完調査等によりデータの鮮度の確保に努められているが、都市交通の実態の経年変化の把握に苦慮されている状況にある。
この課題解決の一方策として、携帯電話等の媒体から取得されるヒトやクルマの動態を24時間365日把握できる交通ビッグデータの活用が注目されており、自動車交通の調査・分析や観光動態調査での活用事例が増えつつある。また、パーソントリップ調査や大都市交通センサスの統計調査そのものへの交通ビッグデータの適用に向けた研究も活発化しつつある。これまでは単一の交通ビッグデータの活用事例が多かったが、昨今は複数の交通ビッグデータの組合せ分析の有用性を示唆する既往研究も見られる。このように交通ビッグデータに係わる研究開発は活発であるが、上述した都市交通の各施策の評価指標への適用可能性は体系的に明らかにされていない状況にある。
本研究の目的は、都市交通の施策の各評価指標への交通ビッグデータの適用可能性や発現効果を実フィールドでの活動を通じて実証的に検証することとした。

研究方法及び成果

1.都市交通の施策で設定されている評価指標の調査

本研究では、全国の地方公共団体を対象に総合交通戦略および地域公共交通網形成計画の実態を調査した。その結果、総合交通戦略は74団体、地域公共交通網形成計画は65団体で策定されており、評価指標は20数項目(公共交通利用者数、公共交通カバーエリア内人口、バスのサービス水準、交通に対する満足度、観光入込客数や自動車交通の旅行速度等)であった。また、各評価指標の算出には、国勢調査、パーソントリップ調査や道路交通センサス等が利用されており、1.で述べた課題は未解決で、交通ビッグデータを継続的に使用した評価指標の算出例も見当たらなかった。
以上を踏まえ、本研究では、主として①都市交通の根幹であるトリップの総量を把握できる携帯電話の運用データに基づく人口分布統計および人口流動統計の有用性、②公共交通カバーエリア内人口の評価指標に対する人口分布統計、用途地域および住宅地図データの適用可能性、③都市交通の施策評価等へのマイクロブログのTwitterの適用可能性を検証することとした。紙面の制約から本稿は、②の研究成果を対象に報告する。

2.公共交通カバーエリア内人口の分析

本研究では、図-1に示す人口分布統計、用途地域および住宅地図データを用いた公共交通カバーエリア内人口の分析手法を考案した。従来の公共交通カバーエリア内人口の算出では、国勢調査の夜間人口が用いられているが、本研究では、人口分布統計を用いる。まず、公共交通施設(バス停留所や鉄道駅)の位置情報および人口分布統計をGIS上に重畳し、バス停留所および鉄道駅のカバーエリアをそれぞれ生成する。そして、カバーエリアと重なる500mメッシュで集計化された人口分布統計を対象に面積按分し、公共交通カバーエリア内人口(1次)を算出する。ここまでは従来の分析と同様の手順であるが、本研究の考案手法では、用途地域および住宅地図データを用いて立地状況を加味した人口分布に補正し、公共交通カバーエリア内人口(2次)を算出する。
本研究では、平成26年度に公共交通カバーエリア内人口を分析しているつくば市(バス停留所668箇所)を対象に、同手法に基づくケーススタディを実施した。平成26年度の分析結果では約12.3万人であったが、ケーススタディでは表-1に示す結果を得た。公共交通カバーエリア内人口(1次)は、メッシュとカバーエリアとの面積按分により算出した(図-2a)。メッシュ内の土地利用状況や建物の立地状況を考慮し、公共交通カバーエリア内人口(2次)を算出した(図-2b、図-2c)。
考察として、人口分布統計を用いると、表-1に示すとおり、時間単位の公共交通カバーエリア内人口を算出できる。この結果、時間帯別に公共交通の潜在需要を把握できる。なお、各分析結果の数値の差異の要因分析も実施したが、本稿では紙面の制約から詳説を割愛する。
本研究成果は、学会への論文投稿に加え、都市交通に係わる産官学の多くの関係者(つくば市、国土交通省、筑波大学やコンサルタント等)が参画している“つくばモビリティ交通研究会”にて発表し、実務に供する成果である意見を多数頂戴した。以上より、本研究では、人口分布統計、用途地域および住宅地図データは公共交通カバーエリア内人口の算出に有用である示唆を得たと結論づけた。

図-1 分析手法のフロー

表-1 公共交通カバーエリア内人口の算出結果

図-2 公共交通カバーエリア内人口の算出結果

まとめ

以上の成果に基づいて、本研究では、都市交通の各施策の様々な評価指標に対する交通ビッグデータの適用可能性を明らかにし、具体的な適用手法を体系化していくことに引き続き取り組む。

若手奨励支援予算課題に関連する成果一覧

1. 池田大造,渋谷大介,今井龍一,太田勝也,金井翔哉,新階寛恭,円山琢也:携帯電話網の運用データに基づく人口統計を用いた熊本地震における避難者およびボランティアの行動に関する考察,土木計画学研究発表会・講演集,Vol.55,土木学会,2017.6
2. 山嶋祥平,今井龍一,太田勝也:携帯電話網の運用データに基づく人口分布統計を用いた公共交通空白地域の高齢者人口の算出,第44 回土木学会関東支部技術研究発表会講演概要集,CD-ROM,2017.3
3. 太田勝也,金井翔哉,今井龍一:携帯電話網の運用データに基づく人口分布統計及び住宅地図データを用いた公共交通カバーエリア内人口の分析,土木計画学研究発表会・講演集,Vol.54,CD-ROM,土木学会,2016.11

2020年4月、東京都市大学 工学部は「理工学部」へ名称変更いたしました。
併せて、工学部からの改編にて「建築都市デザイン学部」を新設いたしました。