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シリコン・ゲルマニウム系歪み制御ナノ構造開発

電気電子通信工学科 澤野 憲太郎

研究背景

今日、我々の生活に不可欠となっている電子機器の消費電力は年々急上昇を続けており、これらの低消費電力化が世界的喫緊の課題である。特に、コンピュータの心臓部である、超高度集積化されたマイクロプロセッサー(CPU)の消費電力を抑制する技術開発が極めて重要である。その中、CPU内部の基本素子であるMOSトランジスタのチャネル駆動力向上により大幅な消費電力低減化につながる。また、シリコン系発光デバイスが実現されれば、チップ内の電気配線を部分的に光配線に置き換えることが可能となり、画期的消費電力低減につながる。
これら、チャネル駆動力増大、光配線用発光デバイス実現のために、シリコン(Si)系半導体の結晶歪みエンジニアリングと、量子ドットやナノワイアなどのナノ構造制御技術が注目されている。これら結晶歪みとナノ構造とは、両者関わりが深く、歪みによりナノ構造が形成されたり(量子ドット)、逆にナノ構造へ加工することで歪みが導入されたり(ナノワイア)する。これら、導入される歪みやナノ構造は、自己形成的、つまり自然発生的なものであり、それらを制御することは一般に不可能であった。本研究では、この制御を可能とする手法として、通常ナノ構造を形成する下地基板として利用している、無歪みのSi基板に代えて、一軸性の非対称歪みを有するシリコン・ゲルマニウム(SiGe)基板を用いる技術開発を進めた。これにより、全く新しいナノ構造の形成や、歪み状態の実現が可能となり、次世代高性能光電子デバイス応用として期待される。

研究手法

これまでに我々は、低Ge組成のSiGe基板において、マイクロメートル領域の広範囲にわたって一軸歪みを導入することに成功している(APEX 1, 121401 (2008))。今回、ナノ構造の形成に向けて、高Ge組成SiGe基板、さらに一軸歪みGe膜の形成を行い、歪み分布、表面構造、転位構造の詳細な評価を行った。図1に本研究で作製した一軸性歪みSiGe基板の作製手法を示す。まずGe基板(またはSi基板)に選択的にイオン注入を施し、その上にSiGe膜を成長させる。SiGe膜は、膜厚が薄ければ、Ge基板(Si基板)に格子整合し、引っ張り(圧縮)歪みを持って成長されるが、イオン注入した領域ではイオン注入ダメージによる結晶欠陥が転位発生源として働き、ミスフィット転位の発生が大幅に促進され歪み緩和が生じる。一方イオン注入を施していない領域では、歪み緩和が両サイドからの応力により強制的に生じ、一方向のみのミスフィット転位が発生して、歪み状態が一軸性になることが期待される。

図1 一軸性歪みSiGe基板および歪みGe作製手法

研究成果

図2に、作製した試料を、ラマン分光マッピング測定によって、面内歪み分布を評価した結果を示す。ラマン散乱ピークは結晶の歪みによって敏感に変化するため、明瞭なコントラストが確認できていることは、Ge膜の結晶歪みが面内で顕著に変化していることを示している。すなわち、選択的イオン注入によってGe膜面内での歪み状態の任意制御が可能となったと言える。

図2 Ge層のラマンマッピング像

図3にGe基板とSiGe膜界面の転位構造を平面TEM観察した結果を示す。中央のイオン注入のない領域において、転位が横方向([-110]方向)のみに伸びていることが確認できる。結晶の歪みは転位と垂直方向に緩和するので、SiGe結晶が縦方向([110]方向)にのみ緩和していることを示しており、一軸性歪みを有していることを意味する。実際にX線回折の詳細な評価によって、歪み緩和率が2方向で40%異なることが分かった。

図3 Ge/SiGe界面の平面TEM像

さらに表面形状をAFMによって測定した結果を、転位構造、表面ステップ構造の対応と共に図4に示す(ここではSi基板上の構造)。一方向の転位に対応した方向に表面ステップが並んでいることが分かり、表面形状の異方性制御が可能であると言える。

図4 一軸歪みSiGe基板の構造図、表面AFM像、転位と表面ステップ構造

今後の展望

本研究で形成した一軸歪みSiGe基板は、通常のSiGe基板とは全く異なり、数nmの表面ステップが、完全に一方向にのみ多数形成されている。この基板上に結晶を成長させると、表面ステップにより原子のマイグレーションが妨害され、ステップ位置に選択的に結合、成長し、数nmオーダーのヘテロナノワイアの形成が期待できる。また、一軸歪み量子ドットの形成も可能であり、これら新規ナノ構造実現により、ナノワイア・トランジスタや発光デバイスの実現へつなげたい。

若手奨励支援予算課題に関連する成果公表一覧

論文

(1)K.Sawano, Y.Hoshi, S.Kubo, K.Arimoto, J.Yamanaka, K.Nakagawa, K.Hamaya, M.Miyao, Y.Shiraki,“Structural and electrical properties of Ge(111) films grown on Si(111) substrates and application to Ge(111)-on-Insulator”, Thin Solid Films, in press, published on-line
(2)Yusuke Hoshi, You Arisawa, Keisuke Arimoto, Junji Yamanaka, Kiyokazu Nakagawa, Kentarou Sawano, and Noritaka Usami, “Compressively strained Si/Si1-xCx heterostructures formed on Ar ion implanted Si(100) substrates”, Japanese Journal of Applied Physics 55, 031302 (2016).

国際会議発表

(1)Kentarou Sawano, “Strained Germanium based Nano-Structures toward High Performance Optoelectronic Integrated Circuits” (Invited), International Symposium for Advanced Materials Research 2015 (ISAMR 2015), Sun Moon Lake, Taiwan (August 2015)
(2)K.Sawano, T.Nagashima, H.Hashimoto, X.Xu, K.Hamaya, and T.Maruizumi, “Fabrication of Strained Ge-on-Insulator for Ge-based Optoelectronic Devices”, E-MRS 2015 Spring Meeting, Lille, France (May 2015)
(3)Y.Hoshi,K.Arimoto,K.Sawano,Y.Arisawa,K.Fujiwara, J.Yamanaka, K.Nakagawa, N.Usami, Compressively strained Si/Si1-xCx heterostructures formed by Ar ion implantation technique“,9th International Conference on Silicon Epitaxy and Heterostructures,Montreal,Canada (May 2015)
(4)Shiori Konoshima, Eisuke Yonekura, Kentarou Sawano, “Fabrication of uniaxially strained Ge by selective ion implantation technique”, Accepted for oral presentation in 18th International Conference on Crystal Growth and Epitaxy (ICCGE18) (August 2016)

2020年4月、東京都市大学 工学部は「理工学部」へ名称変更いたしました。
併せて、工学部からの改編にて「建築都市デザイン学部」を新設いたしました。