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複合微粒子を投射材とする微粒子ピーニング(FPP)を利用した表面改質

機械工学科 亀山 雄高

はじめに

機械構造材料の中には,さまざまな過酷な環境下で利用に供されるものが少なくない.そのような材料の耐久性や性能を向上させるうえで有用な技術が表面改質である.なかでも著者は,図1に示す微粒子ピーニング(Fine Particle Peening,以下FPPと略記)に着目して研究を行っている.FPPには金属材料の疲労破壊を抑制する効果があり,このような目的では既に実用化されている.一方,これ以外に生じる効果として,微粒子の成分がFPPを施した表面へ残存する(本研究ではこの現象のことを,移着と称している)点が挙げられる.この作用は望まざる効果(材料に不純物が付加されるとの見方から)としてとらえられる場合も少なくないが,著者はむしろこの現象を積極的に表面改質へと応用することを考えている.すなわち,FPPを用いて何らかの優れた性質や機能を有する物質を材料へ移着させ,その材料の特性をさまざまに改善する,という発想である.

図1 FPPの原理および特徴

このような表面改質を実現するには,FPPにおける移着現象への理解を深め,移着の発生挙動をコントロールできるようにすることが重要である.本研究ではその一環として,まずFPP用の複合微粒子を独自に試作し,移着を顕著に発生させることを試みた.さらに,この複合微粒子を用いてFPPを施し,その成分を被処理材へと移着させることによって,種々の表面改質を試みるとともに,FPPによる移着現象を利用した表面改質プロセスの有用性について検討を加えた.

FPPによる移着現象を促進するための複合微粒子の提案とその応用事例の検証

移着現象を利用してさまざまな表面改質を行うためには,さまざまな物質をオンデマンドに移着させられることが必要といえる.ところが,移着現象は硬い微粒子が衝突した際に被処理材が微小な引っかき作用を受けること伴って生じるため,比較的軟らかい物質の粒子をFPPに用いた場合には移着が生じにくい.この点を解決するための工夫として,移着させるべき軟らかい物質を,硬い微粒子の表面に被覆した構造の微粒子(複合微粒子)を試作した.その一例として,鋼粒子に銅めっきを施して試作した銅/鋼複合粒子を図2に示す.

図2 (a) 複合粒子作製に用いた鋼粒子, (b) 銅/鋼複合粒子( (a)の粒子へ銅めっきを施して作製 )

この粒子を用いてFPPを施した場合には,銅の粒子をFPPに用いた場合と比較して,より多量の銅がFPP被処理面へ移着することが明らかとなった(図3).これは,複合粒子内部の硬い鋼粒子が,銅の移着を促したことに起因する.このように,複合粒子を用いることで,通常ではFPPによる移着が生じにくい材質でも,効果的に移着させることが可能となった.さらに,試作した銅/鋼複合粒子を用いて,アルミニウムへのめっき密着性を改善する目的の処理を試みた.アルミニウムはめっきが困難な材料として知られているが,めっきの潜在的ニーズは多い.例えば,硬質めっきを施すことができれば,摺動部材を軽量なアルミニウムで製造可能になるなどの効果が期待される.一方,銅はその表面にさまざまなめっきを容易に被覆可能であるため,図3のように銅が移着した状態のアルミニウム表面へは,密着性良好なめっきが被覆できるものと期待できる.

図3 複合粒子を用いてFPPを施した純アルミ材表面の元素分析結果

そこで,銅/鋼複合粒子を用いたFPPを事前に施したのちにアルミニウムへめっきを被覆し,その密着性について評価を加えた.具体的な実験結果は割愛するが,現段階では上述の予測に反して,銅を移着させたアルミニウム表面へ被覆しためっきの密着性は,十分とはいえなかった.ただし,はく離しためっきの裏面には銅や鉄が付着した状態となっていることが確認された.つまり,めっき被膜と銅・鉄との密着性は高い反面,移着物とアルミニウム母材との接合強度が相対的に弱く,その部位ではく離が生じていることが示唆された.この点については,移着物と母材との密着性の問題点を改善することを意識しながら引き続き検討を加える予定である.

FPPによる移着現象を利用した摩擦摩耗特性の改善

ナノレベルの寸法を有する炭素材料は,低い摩擦係数や優れた耐摩耗性を示す物質として近年注目を集めている.FPPを利用してこれらを摺動部材表面に移着させることができれば,摩擦摩耗特性を簡便に改善できるものと期待される.そこで本研究では,ダイヤモンドやカーボンブラックなどの超微細粒子をFPPによって移着させ,摩擦摩耗特性の改善を試みた.具体的には,これらの炭素材料を鋼粒子表面へ被覆した複合微粒子を作製し,FPPに用いた.この手法によりカーボンブラックを移着させた純鉄表面の摩擦係数は,図4に示す通り未処理の状態と比較して低下している.カーボンブラックが含有する極微細なグラファイト構造が潤滑作用を示した結果,摩擦係数の低下がもたらされたものである.このように,微細な炭素材料を被覆した複合微粒子を用いてFPPを施すことにより,摩擦低減を目的とした表面改質が可能であることが見出された.

図4 FPPによってカーボンブラックを移着させた純鉄表面の摩擦係数

まとめと今後の展望

本報告書では,FPPによって生じる移着現象を促進するための複合微粒子を開発し,その応用事例について検討した結果について述べた.それにより,たとえばFPPにより微細炭素材料を移着させることで被処理材の摩擦係数を低減可能である点など,提案する手法の実用的意義を示唆する結果が得られた.現時点では基礎研究の段階であるため,このような表面改質をどのような目的で何に対して適用するかについては明確にしていない.しかしながら将来的には,今回得られた知見をもとに,移着させる物質を適切に選択することによってさまざまな表面改質効果を発現させ,省エネルギ化・信頼性向上・安全性向上・省資源化などへ寄与する技術として適用できることが期待される.

研究成果一覧

審査あり学術論文

(1) 亀山雄高,日原勇紀,佐藤秀明,眞保良吉;カーボンブラック粉末を担持させた鋼粒子を用いた微粒子ピーニングによって生じる炭素の移着現象とそのメカニズム,砥粒加工学会誌,vol.58・No.3,平成26年3月,p178-184
(2) 亀山雄高,大和久祐樹,和田修,佐藤秀明,眞保良吉;銅/鋼複合粒子を用いた微粒子ピーニングによる純アルミニウムの表面改質,砥粒加工学会誌,vol.57・No.12,平成25年12月,p806-812

国際会議発表および論文

(1) Y. Kameyama,H. Sato, R. Shimpo,H. Ohmori;Possibility of Fine Particle Peening as a Micro Surface
Modification to Reduce Friction,The 7th MIRAI (Manufacturing Institute for Research on Advanced Initiatives) Conference on Microfabrication and Green Technology,Advanced Micro-Fabrication and Green Technology Transactions of MIRAI Vol.3,2014年3月,p94-97

国際会議発表

(1) Y.Kameyama, K.Nishimura, H.Sato, R.Shimpo;Effect of fine particle peening using carbon-black/steel hybridized particle on the tribological properties of stainless steel,International Conference on Diamond and Carbon Materials 2013,2013年9月,Riva del Garda,Italy (Poster Presentation)

国内学会発表

(1) 亀山雄高;微粒子ピーニング法により改質した表面の分析事例,表面技術協会ナノテク部会第50回研究会「表面界面分析セミナー」,平成25年6月,東京 (依頼講演)
(2) 亀山雄高,佐藤秀明,眞保良吉;複合粒子を利用した微粒子ピーニングの開発とトライボロジー特性改善への応用,第17回テクニスト研究会,平成25年5月,和光 (依頼講演)