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地盤と構造物の相互作用による現象把握のための可視化技術に関する基礎的研究

都市工学科 伊藤和也

研究背景と目的

地盤工学分野での物理模型(PhysicalModellinginGeotechnics)は,自然現象を模型によって再現することで現象の理解の一助とするとともに,理論的なデータを提供する.その際に地盤内の挙動は地盤内部に設置した様々な計測機器から得られる点情報から把握を行っている。しかし,地盤内の全体的な挙動が把握できないことから地盤内の可視化技術に関する研究が必要とされてきた.近年,固体と液体の屈折率を一致させて固体を透明化させる「屈折率マッチング技術」を地盤工学分野に援用した研究が行われるようになった。これは高純度溶融石英の粉砕技術が発達し,砂地盤と等しい粒径の溶融石英でも透明化させることが可能となったためである。ここで,一例として溶融石英と液体の屈折率を一致させて作製した地盤を写真-1(a),溶融石英と屈折率が一致しない水を混ぜ合わせて作製した地盤を写真-1(b)に示す。本研究は,このような地盤の可視化技術を利用し,今まで現象把握することが難しかった地盤と構造物の相互作用問題について実験的な検討を行った。
本研究は透明化する材料の選定から検討をはじめ,屈折率の違いが透明度に与える影響について把握した。さらに透明地盤の具体的な適用問題として,ジオグリッドを一層敷設した透明地盤の支持力メカニズムと支圧アンカーの引き抜きメカニズムを取り上げて実験的な検討を行った。

(a) 流体と固体の屈折率が一致した地盤

(b) 溶融石英と純水 写真-1 作製した地盤

研究結果

研究成果を以下にまとめて記載する

(1)透明化に関する検討

流体の注入方法の検討では,脱気した流体を下から注入する方法が最も透明度が高いことが分かった(表-1).また,水面から水中落下法で地盤を作製する方法は透過域が浅い場合において地盤作製方法としては有効な選択肢であることを示した。屈折率を変化させた透過実験では,溶融石英(屈折率:1.458)と屈折率1.453~1.461までの0.001刻みで変化させた流動パラフィンでは屈折率が1.457~1.459の区間で透過度が高いことが視認された。また,定量的な透過度測定方法との整合性についても確認した。

表-1 注入方法の違いによる透明度合い

(2)【適用事例】ジオグリッド敷設の支持力発現メカニズム

ジオグリッドを一層敷設した地盤の支持力特性をジオグリッドの敷設深さ,および幅を変化させた,鉛直載荷実験を行い,ジオグリッドによる補強基礎の支持力発現の様子を画像から確認した。その結果,ジオグリッドの補強効果は敷設幅,敷設深さによっても支持力発現メカニズムが異なり,地盤内部のジオグリットの変形による影響が大きいことが分かった。

(3)【適用事例】支圧アンカー式補強土壁工法の引き抜きメカニズム

鉛直な壁面を有する土留構造物を構築する補強土壁工法として「支圧アンカー式補強土壁工法」がある.この工法はアンカープレートの引き抜き抵抗力による支圧力で土の側方変位を拘束し,土を補強するものである.支圧アンカー式補強土壁の設計マニュアルではアンカープレートの引き抜き抵抗力の算定には,アンカープレートまわりの地盤が剛塑性で軸対象条件であるとみなしたすべり線法を用いて算定している。本研究では透明地盤を用いて支圧アンカー引抜試験(図-1,写真-2)を実施した。その結果,支圧アンカーの引き抜いた際に,浅い地盤において,支圧アンカーの引き抜く方向に円弧状にすべり線が拡がる様子が確認され(図-2),設計マニュアルで想定しているすべり線とは異なる挙動を示すことが分かった。ただし,引き抜き量が少ないため,今後より詳細な検討が必要である。

図-1 支圧アンカー引抜試験

写真-2 実験の様子

図-2 PIV解析による引抜時の地盤挙動

今後の展望

透明地盤に関する多くの知見を蓄積することができた。地盤工学分野は構造物と地盤の相互作用問題が多いため,現象把握のための汎用的なツールとして今後有効活用していきたい。また,理論的な検討が困難な回転貫入系や粒状体形状の可視化実験についても適用可能であり,今後の検討課題と考えている。

若手奨励支援予算課題に関連する成果公表一覧

1) 鈴木直人,伊藤和也,末政直晃:地盤と構造物の相互作用による現象把握のための可視化技術に関する基礎的研究-透明地盤を用いた砕石杭改良地盤の模型実験-,第13回地盤工学会関東支部発表会Geo-Kanto2016,構造3-5,DVD-ROM,A0055,2016.
2) 鈴木直人,伊藤和也,末政直晃:地盤と構造物の相互作用による現象把握のための可視化技術に関する基礎的研究,第51回地盤工学研究発表会,DVD-ROM,No.761,2016.
3) 鈴木直人,伊藤和也,末政直晃:地盤内部の可視化手段を用いたジオグリッド補強基礎の支持力特性,第43回土木学会関東支部技術研究発表会,DVD-ROM,No.3-44,2016.
4) 鈴木直人,伊藤和也,末政直晃:地盤と構造物の相互作用による現象把握のための可視化技術に関する基礎的研究―地盤の透明化に関する流体注入方法の検討-,第12回地盤工学会関東支部発表会Geo-Kanto2015,DVD-ROM,No.0097,2015.