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シンセティックジェットを利用した流体輸送・混合機能を有する複合装置の開発

機械工学科 西部 光一

研究背景と目的

近年、連続噴流の代替としてシンセティックジェット(以下、SJ)が注目を集めている。SJとは噴出と吸引を交互に繰返すことで、スロット出口での時間平均速度がゼロであるにも関わらず、出口付近で渦が形成され、下流では連行により連続噴流と類似の速度分布・実質流量が生成される流れである。アクチュエータにはピエゾ駆動型などが考案されており、回転部が不要であるため小型化・軽量化に適している。これまでにSJの噴流構造の解明(1)から、翼の失速制御等の応用(2)まで、幅広く研究が行われてきた。しかしながら、SJを流体機械の駆動源に利用している研究例(3)は少なく、駆動源として利用する際に重要である最適な振動条件と幾何形状の関係についての議論は不十分である。そこで、本研究ではSJを駆動源としたファンを製作し、駆動条件が性能特性及び混合性能に及ぼす影響について議論する。さらに連続噴流を利用した標準型ジェットファンとの比較を試みる。また、この基本特性が解明されることで、医薬品や腐食性流体向けの小型非接触式のポンプ・ミキサーへの将来的な応用が期待される。

研究方法

実験装置の概略図を図1に示す。作動流体は空気であり、スロット(幅b=5mm)から噴出された噴流の運動量の輸送に伴い、被駆動体は吸引口から吸い込まれ、駆動体と一緒にダクト流路内に圧送される。その後、流路内で概ね圧力回復し吐出される構造となっている。図2に示すようにSJアクチュエータはピストンヘッド、クランク、ステッピングモータで構成され、クランク直径を変更することで無次元ストロークLを調整した。一方、連続噴流の生成のためのアクチュエータには遠心ファンを用いた。装置出口流量は、便宜上プレナム通過後のベルマウス直後の流路中心における時間平均速度に流路断面積を掛けて算出し、吐出圧はプレナムに設けられた静圧孔と被駆動体入口の差圧を計測し、時間平均して求めた。結果については投入運動量を合わせた代表速度Uでそれぞれ無次元化した流量係数Φ、圧力係数Ψ、効率係数ηで整理した。なお、本報告ではパラメータを自由噴流状態におけるシンセティックジェットの噴流構造に大きな影響を及ぼす無次元ストロークLとし、幾何形状を変化させず同一レイノルズ数Re=Ub/ν=2800、供試ファンの運転点(Φ/Φmax=0.5)条件下での実験結果のみを示す。

図1 実験装置概略図

図2 アクチュエータ詳細図

流体輸送・混合の性能特性について

図3に噴流中心位置(y/b=0)におけるx方向速度の絶対値|u|/Uの時間波形とLの関係を示す。(a)、(b)はそれぞれスロット出口近傍と装置出口における結果である。横軸は時間tをアクチュエータの振動周期Tで無次元化している。なお、スロット出口直後は、吸引時は噴出時よりも主向性が小さく、スロット出口中心における吸引過程の山部は噴出時よりも小さくなる事から、流れ方向の判定をしている。図より、(a)スロット出口ではLに依存せずSJの噴出・吸引過程で、それぞれ正の速度(大きい山)と負の速度(小さい山)が交互に確認される。その一方、(b)ダクト出口では、Lに依らずスロット出口に比べて速度変動が小さくなるものの、L=270では常に正の速度の脈動流であるのに対し、L=740では吸引過程による逆流が観察された。

図3 噴流中心位置における無次元x 方向速度の絶対値の時間波形

また、図4に装置出口における逆流現象とLの関係を示す。縦軸は逆流が確認され始める無次元流量比Φs/Φmaxである。図より、Lが大きい方がより高流量側でも逆流が生じることがわかる。以上よりLが大きい場合は、吸引時に吸引口に加えて装置出口からも吸込むことで逆流が生じ、Lが大きい方がより高流量側で逆流現象が生じることが示された。これは最適なLとダクト長の関係があることを示唆している。

図4 装置出口で吸引が生じる流量と無次元ストロークの関係

図5、6に無次元の性能曲線と効率曲線を示す。それぞれ縦軸は圧力係数Ψ、効率係数η、横軸は流量係数Φであり、点線は従来型の連続噴流の結果である。図より、連続噴流とL=270、470の性能特性と最大効率が概ね一致していることが分かる。一方、L=650以降では、Lの増加に伴い最大流量・圧力共に低下している。これは上述の運転点(Φ/Φmax=0.5)で逆流が生じるLの大きさと対応しており、Lとダクト長の関係がファンの性能特性にも大きな影響を及ぼすことが示された。なお、L=23の場合に性能・効率が大きく低下する理由は、予備計算結果から噴出時にスロット出口で生成される渦対が離脱する前に、吸引されてしまうが原因であることが確認されている。

図5 性能曲線(流量―圧力)

図6 効率曲線(流量―効率)

図7に混合性能評価の第一歩として計測したダクト中心線上の無次元速度変動RMS値の分布を示す。図より、連続噴流に比べてSJのRMS値が大きいことが分かる。これは、連続噴流は、ほぼ定常流であるのに対してSJは生成された渦対がダクト内を周期的に進行し振動流であることが理由であると推察される。以上より、SJは従来型ファンに比べてRMS値が高く、Lの増加に伴い混合が促進される可能性を示した。

図7 ダクト中心での速度変動の変化

まとめ

SJを利用した流体輸送・混合機能を有する複合装置開発に向けた基礎的研究として、SJを駆動源としたファンの性能特性及び流れ場の詳細について検討し、以下の結論を得た。(1)同一投入運動量下において、SJファンは従来型ファンと同程度の性能特性・効率を得られることがわかった。また、最適なLとダクト長の関係があることが確認された。(2)速度変動RMS値から、SJファンは従来型ファンよりも混合性能が高いこと、本実験範囲内ではLの増加に伴い混合性能が向上する可能性を示した。

参考文献

(1)Holman, R., et al., Formation criterion for synthetic jets, AIAA Journal, Vol. 43, No.10 (2005), pp.2110-2116.
(2)Duvigneau, R., et al., “Optimal Location of a Synthetic Jet on an Air-foil for Stall Control.”, Journal of Fluid Engineering, Vol. 129, 2007, pp. 825-833.
(3)Koso, T., et al., Piezoelectric fan using a synthetic jet principle, JSME, No. 088-1 (2008). (in Japanese)

本研究に関連する成果発表

(1)姜東赫,西部光一,他2 名; 渦法によるシンセティックジェットの流動特性に関する研究,日本機械学会論文集 Vol. 82 (2016) No. 839 p. 16-00163
(2)Ryota Kobayashi, Koichi Nishibe, 他3 名; Vector control of synthetic jets using asymmetric slot, ASME Fluids Engineering Division Summer Meeting (FEDSM), 2016 年7 月
(3)Yusuke Ishikawa, Yohei Nomura, Tomohiro Sayama, Koichi Nishibe, 他2名; Investigation of flow characteristics of synthetic jet on circular cylinder, The 27th International Symposium on Transport Phenomena (ISTP27), 2016 年9 月
(4)Tomoaki Ishizawa, Koichi Nishibe, 他2 名; Performance Characteristics of a Fan using Synthetic Jets; Springer Proceedings in Physics (ICJWSF 2015) , 2016 年1 月
(5)Yusuke Watabe, Koichi Nishibe,他2 名; Influence of an asymmetric slot on the flow characteristics of synthetic jets, Springer Proceedings in Physics (ICJWSF 2015) , 2016 年1 月
(6)牛窪一樹,西部光一,他3 名; ピストン型アクチュエータを用いたシンセティックジェットポンプの開発,日本機械学会流体工学部門講演会,2015 年11 月.